【好きなことで生きている】 ~タナカヨウコの篆刻探訪記 #062~
タナカヨウコの篆刻探訪記
【好きなことで生きている】
●暗闇で語る篆刻家in立川
闇に包まれた立川の路上でひとり、スマホ(カメラ?)に向かって語るおじさんありけり。
BGMは草陰に響く虫の声、アスファルトを擦るタイヤの音…。
きっと、何人かの通行人に、怪しまれたに違いない。
私だったら周りを気にして挙動不審になり、更に怪しさを増すことだろう。
好きなことで生き、それを楽しみ、大成させているおじさんは、
怪しまれたところで、動じない強さを持ち合わせているのだろうか…。
私も、好きなことで生きていきたいと考えてきたし、ある意味それを達成していると思う。
だからかな、この動画を視聴して雨人さんの言葉の数々に、共感できた。
その中で特に「そう、そう。そう!そう!!」と、何度も頷いてしまったのは、
自分の好きなことも仕事になると、思っていたのとは違う部分が出てくる、ということ。
いわゆる「理想と現実」ってやつで、人間のココロはその間で揺らぐわけね。
かつて私は、好きなこと、絵を描くことで食べていきたいと思っていた。
雑誌の漫画スクールやイラスト公募に作品を送っても、なかなか仕事には結びつかない。
フリーで仕事を得るにはどうすべきかという知恵もなかったので、
とりあえず、友人や知人に絵を描いてと頼まれたら有償・無償問わず、喜んで引き受けていた。
●理想と現実のギャップを悟る
あれは、確か二十歳を過ぎたばかりのころ、美大の通信教育課程でデザインを学びながら、
公立保育園で1歳児担任臨時職員(当時は保母)として働いていたときのこと。
お昼寝の時間に、子どもたちと一緒に寝てしまったことが、たぶん園長先生にバレて、
その時間になると職員室に呼ばれるようになった。
あるとき、ちょうど運動会を控えていたこともあり、入場ゲート作りやしおり作りを命じられた。
入場ゲートは描きたくもないディズニーキャラクターを、言われるがままに描かされた。
運動会のしおりの原稿は、決まった内容(文字)の見出しを装飾し、余白に挿絵を描くなどした。
挿絵は比較的自由に描かせていただけたので、ミッキーとドナルドを描くよりも楽しかった。
楽しかったから、どんどん気持ちが盛り上がり、少しの隙間をも埋める感じに仕上がった。
私の渾身の作、しおりの原稿を見た園長先生は、ごちゃごちゃしすぎと言い放った。
「子ども向きじゃない」と。
「えーっ、そうですかぁ??」顔で笑って、
「いやいや、それが私の作風なんです」心で抵抗するも虚しく。
「こことここ、要らないから消して。ここはこうして、あそこはああして…」
結局、様々な指示を受け、大幅に描き直しさせられた。
「最初から細かく指示してくれよ」と思った。
描き直しは、全く楽しくなかった。
このとき私は気づいた、私が描きたい絵と保育所が求める絵のギャップ、理想と現実の歪に。
今になって考えれば、当時園長先生は、現役保母の私に細かい指示を与えなくとも、
園児向けであることに配慮した原稿を作るのが当たり前だと考えていたのだと思う。
そんなことにすら頭が回らなかった若かりしころのおバカな私は、
「クライアントの言う通りに絵を描くなんてまっぴらごめんだ」と思うようになり、
その他様々な経験を経て、いつしか絵を専業にしようとは思わなくなっていった。
●好きなことを追いかけて・・・
理想と現実の乖離をなくすには、自分の理想がクライアントに認められたらいい。
時間はかかるが、ひたすらやり続けることで認知されていくと、雨人さんは言う。
現在生業としている「雑貨屋」のバイイングと営業も、好きなことのひとつと言える。
つまり私は今も尚、理想と現実の間でもがきながら、好きなことを追いかけ続けている。
雑貨屋コンロラン店主 タナカヨウコ
【記事を書いた人】
ライター:タナカヨウコ
北鎌倉「コンロラン」店主
旅行好きがこうじて北鎌倉に世界の雑貨を扱う雑貨屋オープン
ライター、イラスト、写真と何でもこなすマルチアーティスト
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