篆刻家が語る職人が一番苦手なもの。それがセルフプロデュース(笑)
技術一本で食っていく覚悟ができた次にやって来る難問
どもども、篆刻家、雨人です
以前僕は、かなりの格安で印を彫っていました
僕の父は公務員でしたし
祖父は会社員
親戚一同見渡しても、自営業は皆無でした
ですから、僕が独立し
篆刻家一本で食べて行こうと思った時
どうすれば収入を得ることができるのかはさっぱり分からず
ネット販売始めた時の価格は
1ヵ、1000円
それでも売れればいいや、たくさん彫ればいいや
と無知な20代の僕は、1000円でひたすら営業をかけたのでした
当時、まだネットで買い物をするという習慣もなく
インターネットで内では篆刻のサイトもほぼありませんでした
ですが、いろいろ試行錯誤を重ね、
日に何本も注文をいただけるようになったのです
そら、安いですからね、しかも他に篆刻の受注販売をしているところも少ない
で、張り切って彫りまくりましたよ
嬉しくって嬉しくってね
次々に入る注文にウキウキしたものです
ところが、でした
印をいくら彫っても全然生活が楽にならないのです
それどころか、困窮を極めるばかり・・・
こんなに彫っているのに・・・
今思えば当たり前の話なんですけど(笑)
商売の仕組みを全く分かっていなかった・・・(汗)
その時は、篆刻の刻料、印箱代、送料、振込手数料、全て僕が負担していたのです。
それを1000円で請け負えば、赤字とまではいかなくても
儲けはスズメの涙・・・
仕事をすれども貧乏に・・・
しかし、それに全く気付かず(アホですねw)
ひたすら彫り続ける雨人さん・・・
無知にもほどがある
で、限界が来ますよそれは
やっと気づいたんです
この値段でいくら彫っても儲けは出ない・・・
愕然としました
しかし、この値段だから注文が入っていると思い込んでいたので
値段を上げるという決断は、非常に苦しいものでした
やっと、原価と一つ彫る時間、その他諸々を考えて
はじき出した値段が、
5000円
緊張しました・・・
注文が来るのかどうか・・・
一気に5倍ですからね
だけどそうしないと生活ができないし
うーん、心配は杞憂に終わりました
もちろん注文数は減りましたが
一つに時間をかけて彫ることができるようになりました
それでも、収入的に考えれば
同世代の月収を大きく下回る金額
手作りで食っていくってのは
技術がいくらあってもダメ
もちろん技術が一番大事
だけど、それにも増して大事なのが営業能力・・・
営業能力ってさ、職人には一番かけてるものなのよね(汗)
誰かが自分の商品を宣伝してくれるのなら
照れながらも、うんうんうなづいていればいいのですが
今はセルフプロデュースの時代
自分で全てを売り込まなければなりません
自分で、HPを立ち上げ、顧客を獲得し、宣伝も自分でやる
口コミの広がりを待っていたって
いつまでたっても注文は来ません
いやー、今はすっかりセルフプロデュースに慣れましたが
当時は辛かったですねえ
自分で自分の作品褒めなきゃいけないんだから
一度、大失敗したことがあります
まだ、自分の篆刻に値段をつけるのが苦手だった頃
注文をくれた方にこんな手紙を添えました
今回はご注文ありがとうございました
篆刻が彫り上がりましたが
それぞれの好みがあると思いますので
金額は納得いく分を振り込んでいただければ結構です
もし、お気に召さなければ
返品も可能ですし
10円の価値しかないと思えば
それでも構いません・・・
的な文章でした
今考えれば最悪ですね
もし自分がこんな手紙もらったら
やっぱり不快な気分になります
しかし、とても丁寧なお返事をいただきました
私はあなたの篆刻に満足しています
しかし、あなたが満足していないのであれば
この印は送り返しますので、
気に入った印が彫りあがったらお送りください
それと、金額の件ですが
私は最初にあなたから聞いた金額で
納得して注文しました
ですから、その金額をお支払いします
もし、手紙の文面を本気で書いたのなら
それはお客さんに対して大変失礼な文章です
作品を送るなら堂々と送りなさい
あなたが納得して彫り上げたものを
送ってくださったのは分かります
だったら、堂々と送ってください
そうすれば、手に入れた私も
余計に気分が良くなります
要約するとそのような手紙・・・
便箋いっぱいに3〜4枚書いてくださいました
その手紙を読んで僕は胸いっぱいになって
本当に後悔しました・・・
自分の篆刻が受け入れられるのかどうか不安で
自信のなさから不甲斐ない手紙を書いてしまった自分に
それからは、どんなに不安でも
(もちろん、万全を期した印を送りますが)
自信満々送ることにしたのです
そうすることによって、徐々に本当の自信もついて来て
何事も、一歩の勇気だ(笑)
だから、セルフプロデュースって難しいんです
でも、独立したならそれに慣れなきゃいけない
自分の価値を大風呂敷を広げるでもなく
矮小するでもなく
自然に・・・
そう、自然に自分を表現できるようになった時
やっと自由になれた気がしたんです
そして、手作り作家は夢を与える商売
この人の作品を手にしたら、何かが変わるかもしれない
そんな期待を抱かせる人物でないと
だってさ、来年にもやめちゃうような人の作品欲しくないでしょ
最後に
だから、作り手は人の1000倍ぐらい夢がなきゃと思ってる
そして、無理に夢を作るのではなく
自然と夢が膨らんじゃう状態じゃないと
それは、無理やりの夢になっちゃうからね
夢を語りだしたら三日三晩語れる人
そんな人が好きだな
だけど、語るだけじゃダメよ(笑)
ちょっとずつでもいいから進まなきゃ
その進む姿に人は感動するんだから・・・ね
今年の催事情報
今年も色々なところに出張実演販売を行います
お近くにお寄りの際は是非遊びに来てくださいね!
【記事を書いた人】
篆刻家、加藤雨人(うじん)
1975年生まれ
北鎌倉の篆刻工房「かまくら篆助」にて毎日篆刻を彫って暮らしています
詳しいプロフィールはこちら
篆刻家/役者/ラジオパーソナリティ/
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