「気になるアイツ」 ~タナカヨウコの篆刻探訪記 #003~
「気になるアイツ」嫌味のない青い匂いに、春を感じる植物だ。
●トントントンとさりげなく
雨人さんの押すはんこの朱色は美しく、 くっきりと鮮やかに目に映る。
濃すぎず薄すぎず、かすれることもなく、
均一に色がのっていて、 印影そのものに厚みがあるようにも見える。
私が、どんなに上手に押したはんこでも、 あの美しさには届かない。
たぶん、そのヒミツは、アイツにあるのではなかろうか。
柔らかく艷やかに練り上げられた鮮やかな朱色の塊、印泥、に。
右手にはんこ、 左手にアイツの入った陶器か磁器かなにかの器を持ち、
お喋りなんかしながらさりげなく、 トントントンと印泥にはんこをバウンドさせる雨人さん。
気構えもせず、はんこを紙に押し当てて、 いともサラリと美しい印影をつくり出すのだ。
ホームセンターの文房具売り場で買った私の朱肉とは、 全然違うアイツ。
・・・むむ、一体何ものなのか?
●艾(もぐさ)は蓬から。
日本人の大半は、蓬と聞いたら、
草色のおだんごやお餅を思い浮かべると思う。
韓国通の女性なら蓬蒸し、健康オタクなら蓬茶かもしれない。
蓬の葉っぱの裏に、 びっしりと犇めくケバケバを知る人は多いと思う。
あのケバケバの正体、繊毛を精製したものが艾(もぐさ)で、
艾と言えば真っ先にお灸が思い浮かぶ。
こどものころ、悪さをしたのがみつかると
「お灸据えるよ」と叱られたものだ。
●印泥は艾(もぐさ)から。
艾は印泥の主原料のひとつであるという事実を、
私は全く知らなかった。
自分には成し得ないあの鮮やかな朱のヒミツを暴こうと、
軽く検索してみて知り得た情報。
朱色そのものは硫化水銀の発色らしいが、
どうしても艾というより蓬?の方が気になってしまうのは、
食いしん坊のなせるワザ?なのだろう。
まあ、そんなことなどどうでもよい。
いつの日にか、こなれた感じにトントントンと、
鮮明な朱色を美しく紙に重ねてみたいものだ。
タナカヨウコの篆刻探訪記
【記事を書いた人】
ライター:タナカヨウコ
北鎌倉「コンロラン」店主
旅行好きがこうじて北鎌倉に世界の雑貨を扱う雑貨屋オープン
ライター、イラスト、写真と何でもこなすマルチアーティスト
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