「20年越しの謎」 ~タナカヨウコの篆刻探訪記 #005~
「20年越しの謎」
●台湾で作ったはんこ。
もう、かれこれ20年以上前のこと。
初めて訪れた台湾で、はんこを作ったことがある。
なぜ旅先ではんこを作ったのか、理由は覚えていないけれど、
日本より安く手彫りしてもらえるとか、たぶん、 そんなノリだった。
滞在の最終日、残された半日足らずの時間の中で、
宿の近くにはんこ屋さんをみつけて注文した。
彫り上がりを待つ間、
台湾グルメを食したりお土産を買ったり、バタバタ旅を消化して、
出来上がったはんこをピックアップしてから帰国した。
出来上がったはんこを見て、ちょっとがっかりしてしまったのは、
三文判とほとんど変わらない、極々普通の書体だったから。
台湾の漢字が画数多めの繁体字であることは、
タイワニーズのともだちとのやりとりで知っていたので、
はんこだって自動的に、複雑な文字で出来上がるに違いない、
と、心密かに期待していたのに。
画数が少ないし、小3までで習い切る漢字だから、
複雑になりようがないのかもと、さらりと諦めて、
その後、書体のことなど突き詰めたりはしなかった。
水牛の角でできたそのはんこを、後に役所で印鑑登録したときに、
「真ん中が少しヘコんでいますねぇ」と、職員から指摘を受けた。
●ヴィジュアル系文字。
文字はデザイン性に優れていて、記号としてシンプルに美しい。
意味が解らぬほど、素直にそのフォルムのみを見ることになる。
読み書きもできないくせに、
私はミャンマーのビルマ文字のヴィジュアルが好きだ。
丸っこくて愛らしく、
世界一かわいい文字と言われているとかいないとか…。
現地で路線バスに乗るときは、
行き先もバス停名も全く読めなくて困り果て、
一瞬キライになることもあるけどね。
(大抵、やさしいミャンマーの方々に助けられ、
ちゃんと目的地にたどり着ける不思議、笑)
最近は、ジョージアのグルジア文字が気になっている。
ネットでは、ビルマ文字と似ている説が囁かれているので、
たぶん、好みのタイプのヴィジュアルなのだろう。
話を戻すと、
系統は異なれど、日本の文字もとても美しいと思う。
はんこ文化が成り立ち、これまで消滅しなかったのは、
文字の美しさによるところが大きいのでは、…なんてね。
●スマホとおじさん。
左にスマホ画面、右にスマホをいじる雨人さんが映るその動画、
誤って音を消してしたら、ただスマホで遊ぶおじさん(失礼!) という、
ある意味マニアックかもしれない動画を、 延々見続ける羽目になる。
なんで、そんな動画を見てしまったのかというと、
それは、とある究極の字書サイトの紹介で、
篆書体の調べ方を教えてくれると謳っていたからだ。
画数の少ない簡単な漢字で成り立つ私の姓と名は、
篆書体となっても、果たして楷書体と変わりないのだろうか。
あのとき、台湾で作ったはんこの様に…。
そんな疑問がふと、頭に浮かんだのだ。
おじさんが映る画面から視線を外し、 手元のスマホでそのサイトを開く。
そして、姓名の漢字をひと文字ずつ検索窓に入力してみた。
あらら?
ちょっとばかり画数と角が増えて、 やや難解になっているではありませんか。
ほほう、
私の姓名の漢字は複雑にはならないなんて、 ただの思い込みだったのか。
ちゃんと少しはカッコよくなるんだ。
20年越しの謎が解けた!?
発見、そして、不思議と安堵。
オトナになっても知らないことは、 まだまだ意外に多いものですね。
おじさんの動画には、学びが隠されていた。
雑貨屋コンロラン店主 タナカヨウコ
タナカヨウコの篆刻探訪記
【記事を書いた人】
ライター:タナカヨウコ
北鎌倉「コンロラン」店主
旅行好きがこうじて北鎌倉に世界の雑貨を扱う雑貨屋オープン
ライター、イラスト、写真と何でもこなすマルチアーティスト
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