「逃げて戻って今がある」 ~タナカヨウコの篆刻探訪記 #011~
「逃げて戻って今がある」
●逃げだった?
これまでの短くもない人生の中で、何かから逃げたことがあるだろうか。
私は逃げたりしないよ、逃げるなんて無責任で好きじゃないから。
今まで仕事を変えてきたのだって、前職から逃げたというより、
他にやりたいことが見つかったからだし。
なんて過去を思い返してみると、やっぱりそれらは逃げだった、
・・・ような気がしてきた。
ともすれば、逃げだらけの人生だったのかもしれないとさえ思えてくる。
例えば、そう、20年ほど前のこと、初めて正社員として勤めた会社を退職した。
「ワーキングホリデーでニュージーランドに渡航する」という大義名分のもとに。
あのときの私はただ海外生活がしたくて、でも十分な資金も語学力もないから、
手っ取り早く、カナダに続く2度目のワーホリ、という手段を選んだ。
ニュージーランドで何がしたい!というような、強い意志など全くなかった。
●逃げどき。 タナカヨウコの篆刻探訪記
辞めた仕事が何だったのかと言えば、笑うことなかれ、それは雑貨屋店長だった。
自分で言うのも何ですが、配属店舗の売上を前年比150%ほどに伸ばすなど、
お恥ずかしながら、なかなかやり手のサラリーマン店長(←自称)だった。
なぜ、今それができない?というツッコミはさておき・・・
その会社に就職した理由は、「いつか雑貨屋さんになりたいな」という
漠然とした乙女な夢を持っていたから。
起業資金も雑貨屋ノウハウもないので、先ずは経験をという、理に適う選択だった。
そして気づく。
会社組織だから成り立っているが、これほど薄利多売で手間ばかりかかる商売を、
個人でやっても儲からない、ということに。
気づいちゃったら若気の至りか、キモチはスルスルと醒めてゆき、
醒め切ったころには近所に新しいショッピングモールができて、急激に客足が遠のく。
時を同じくして同店舗配属が2年目に突入した。
過去の自分が上げた成績が、今の自分に襲いかかる。
1年前に、自身がブイブイ作り出した売上を、上回ることができないという苦悩。
そんな小さな危険分子が、少しずつ心と頭に積もり始めて飽和状態になる、
たぶん、それが、逃げどきだった。
●戻りどき。
逃げた私がどうなったかと言えば、
大好きなチョコレートと乳製品が安いニュージーランドで、激しく肥えた。
・・・そんなことどうでもよい。
農家を渡り歩きながら旅をして、暇に任せて絵を描いたり文章を書いたり、
毎日チーズケーキを焼いたりと、好きなコトをしてストレスフリーに過ごした。
帰国後も、いろんなことをして、いろんなことがあって、15年もの時を経て、
何を始めたかと言えば、あの時逃げた筈の雑貨屋になっているではないか!
しかも、5年以上も続けているとは、我ながら、びっくりである。
たぶん、6年前の脱サラが、私にとってのターニングポイント、戻りどきだった。
●カラダが雑貨屋を忘れない?
一度だけ、篆刻から逃げたことがあるという雨人さん。
逃亡先のイスラエルで、いろんなことがあり、でもやっぱり帰国して、
それまでの諸々をリセットして、ニュートラルに篆刻と向き合うこととなる。
「カラダは本来の自分を知っている」と、雨人さんは言った。
結局は、戻るべきところに戻る、やるべき道は決まっていると。
そうかもしれない。
そう考えても悪くない。
私は、雑貨屋になるべくしてこの道に戻ってきたのだろうか?
だとしたら、15年のブランクって、ちょっと気づくの遅すぎだよね(笑)
雑貨屋コンロラン店主 タナカヨウコ
【記事を書いた人】
ライター:タナカヨウコ
北鎌倉「コンロラン」店主
旅行好きがこうじて北鎌倉に世界の雑貨を扱う雑貨屋オープン
ライター、イラスト、写真と何でもこなすマルチアーティスト
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