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「100の練習より1の本番」 ~タナカヨウコの篆刻探訪記 #013~


 
「100の練習より1の本番」
 
●モトゥエカに暮らす。
 

ちょうど20年前、逃亡先のニュージーランド(#011参照)で、
南島に位置するモトゥエカという小さな町に、数ヶ月間、
滞在していたことがある。
 

果樹園の多いこの町で、私はフルーツパッキング(箱詰め)の職を得た。
 

本当はピッキング(収穫)の仕事がしたくて、面接を受けたのだけれど、
小柄で体力がなさそうという理由で、パッキング工場に回されたのだった。
 
 
●小さな楽しみ。
 

モトゥエカの町は住み心地がよく、シンプルで健全な暮らしの中の、
小さな楽しみに幸せを見出して、のんびりと過ごしていた。
 

月曜から金曜は朝から夕方まで働き、金曜の夜に仲間とパブへ行き、
おいしいニュージーランドワインやビールを煽る。
 

日曜の朝には、町の広場で開催されるサンデーマーケットで、
ドイツ人の手づくりソーセージを食べ、
大きくてまん丸のアボカドを、生産者さんから格安で購入する。
 
こんな些細なことが、この町の暮らしでは
この上ない楽しみだった。
 

当時、ニュージーランドでソーセージといえば、
プニョプニョで歯ごたえのない物体を、ボソボソの薄い食パンに挟むのが主流で、
マーケットで買える本場の味は、とても貴重で人気だった。
 

余談ではあるが、ニュージーランドでバーベキューに誘われると、
十中八九、このプニョプニョのボソボソ挟み一品のみで、
日本との、バーベキューという概念の違いを思い知った。
 
 
●オーラを描く少女。
 

そんなサンデーマーケットで、小学2〜3年生くらいの女の子が、
「オーラドローイング3ドル」と書いた画用紙を掲げて、商売をしていた。
※因みに先出の手づくりソーセージは2.5ドル(笑)
 

シートの上には画材の他に、壊れたおもちゃやマグカップが、
「オール20セント」と書いた画用紙と並んで、無造作に置かれていた。
 

自分でお小遣いを稼ごうとするその逞しい姿勢に、
力強さと根性を感じとったことを、ふと、思い出した。
 
 
●上達への近道。
 

自分で創り出したものを売って稼ぐ、という行動を起こそうとするとき、
いやいやプロじゃないし、お金なんか取れないよ、と思ってしまう。
 

しかし、それは上達への近道、進歩するための手段になる。
 

今はアラサーになるであろう、あのときの少女も、
ご家族やお友だちにオーラを描いてあげる≒練習、とは違う、
それを求める他人に与えて対価を得る≒本番、という心構えと緊張感で、
オーラを見抜く目に磨きをかけ、立派な占い師になっているかも知れない。
(…という勝手な妄想)
 

そんなコトを考えながら、特においしいわけでもない、
あのぷにょぷにょが、なんだか無性に食べたくなった。
 
 
雑貨屋コンロラン店主 タナカヨウコ
 
 

タナカヨウコの篆刻探訪記
 【記事を書いた人】


ライター:タナカヨウコ
北鎌倉「コンロラン」店主
旅行好きがこうじて北鎌倉に世界の雑貨を扱う雑貨屋オープン
ライター、イラスト、写真と何でもこなすマルチアーティスト
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